

トリプルネガティブ乳がん情報サイト
ふくろうの会
トリプルネガティブ乳がんと診断されたら・・・・
まずは基本的な治療の流れ、次にTNBC治療において重要である化学療法について詳しく説明しております。
さらに、昨今保険適応となった遺伝子検査についても掲載しております。
治療方針は患者様の病状や背景、病院や主治医の見解によって異なることがあります。また、病院によって出来る検査や治療が限られる事があります。ご自身でしっかりと考え、主治医と十分相談したうえで、納得のいく治療を受けましょう。
1.基本的な治療の流れ


初発、遠隔転移なし
非浸潤性乳管癌 または 浸潤がんでも0.5㎝以下の場合
➡ 手術のみ
浸潤がんで0.5㎝より大きい場合
➡ 術前(または術後)化学療法 + 手術 ± 放射線治療
※ 手術の術式、放射線治療の選択は、サブタイプによって違いはありません。
※ 化学療法の選択は、他のサブタイプは1㎝より大きい場合に行います。
さらに・・・
🌳 遺伝性乳癌を疑う場合
➡BRCA遺伝子の検査を行い遺伝子変異陽性であれば、乳房温存手術ではなく全摘手術、さらに乳がんの手術と同時に対側乳房切除、両側卵管卵巣切除を勧められる事があります。
🌳 治療後に妊娠・出産を希望(妊孕性温存)する場合
➡化学療法を開始する前に、受精卵凍結や卵子凍結を行います。妊孕性温存とその温存した受精卵や卵子を用いた生殖医療に対して、保険適応はなく自費診療となりますが、自治体から助成金が受けられることがあります。対象者や内容は自治体によって異なります。
上記の治療が終わったら、TNBCは基本的には無治療で経過観察を行います。
遠隔転移あり
骨転移・脳転移がない場合
➡ 化学療法
骨転移・脳転移がある場合
➡ 化学療法に加え、放射線治療を行うことがあります(脳転移に対するガンマナイフなど)。
2.化学療法


※薬剤名は、一般名で表記しています。
※薬剤名をクリックすると、商品名、副作用が表示されます。
副作用表示の見方は、”副作用”のページに記載しております。
※投与方法の記載について
例)3週ごと、4サイクル
→3週間に1回投与を4セット行う
🌳 術前・術後補助化学療法
術前・術後化学療法(補助化学療法)は、再発・転移の予防を目的とした治療で、化学療法が良く効く場合には、再発は非常に少ないといわれています。推奨される薬剤を用いて、副作用対策をしっかりと行い、可能な限り減量・延期せずに行うことが大切です。
TNBCに推奨される補助化学療法は、アンスラサイクリン系+タキサン系で、順番はどちらが先でも差はないとされています。
現在はdose-dence療法が一般的です。
現在TNBCの最も一般的な補助化学療法
術前化学療法として
dose-dence AC(EC)+ dose-dense PTX
→AC(EC)を2週間ごとに4サイクル、その後PTXを2週間ごとに4サイクル(約4カ月)
※ 抗がん剤投与の翌日に、G-CSF製剤(ジーラスタ)を毎回投与
dose-dense療法(ドーズデンス療法)
通常3週おきに行う化学療法を2週おきに行う治療法で、特にトリプルネガティブ乳がんの補助療法としては一般的になってきました。これまでの研究で、dose—dense化学療法群は再発率、死亡率を低下させる事が示されているため、乳癌診療ガイドラインでも ”再発リスクが高くかつ十分な骨髄機能を有する症例には強く推奨” とされています。効果は高いものの副作用は強いため、骨髄抑制の予防としてG-CSF製剤(ジーラスタ)を必ず投与するなどの対策を行います。
■ アンスラサイクリン系
アンスラサイクリン系は、単剤よりも下記の多剤併用療法が推奨されます。
【AC療法】A:ドキソルビシン+C:シクロフォスファミド
→2~3週ごと、4サイクル。
【EC療法】E:エピルビシン+C:シクロフォスファミド
→2~3週ごと、4サイクル
【FEC療法】F:フルオロウラシル+E:エピルビシン+C:シクロフォスファミド
→3週ごと、4サイクル
■ タキサン系
タキサン系は、一般的には単剤で使用されます。
【ドセタキセル】
→2~3週ごと、4サイクル。
【パクリタキセル】
→毎週、8~12サイクル。または2~3週おき、4サイクル。
心疾患でアンスラサイクリンが使えない場合などは多剤併用を行うこともあります。
【TC療法】T:ドセタキセル+C:シクロフォスファミド
→3週ごと、4サイクル
補助化学療法としてペムブロリズマブと、
ペムブロリズマブと併用して使用する場合にのみカルボプラチンが保険適応となりました
免疫チェックポイント阻害剤であるペムブロリズマブ(商品名:キートルーダ)は、2021年にPD-L1陽性 再発・転移TNBCに対して保険適応となっていましたが、2022年9月26日、再発高リスクのTNBCにおける術前・術後薬物療法にも承認されました。
あわせて、ペムブロリズマブと併用して使用する場合のみ、カルボプラチンも保険適応となりました。
当会が発足当初より保険適応を願っていたカルボプラチンが保険適応となりましたが、今回の保険適応ではペムブロリズマブと併用しなくては使用できません。ペムブロリズマブの副作用には不可逆性(治療が終了しても改善しない)のものがあり、これまでペムブロリズマブを使用しなくても再発しない症例が多くいる中で、今後、再発高リスクの症例全てに使用することには懸念の声があります。どの症例に使用するべきか、今後さらなる検討が求められています。
再発高リスクのTNBCに対し、術前に下記の抗がん剤と併用で投与した後、術後はペムブロリズマブ単剤で投与を継続
※再発・転移乳がんへの適応と違い、PD-L1発現の有無は問いません!
※再発高リスクの基準
以下は臨床試験で対象となっていた患者さんの基準であり、実際は主治医の判断のもとで適応を判断します。
-
大きさが1~2cmで、リンパ節転移があり、遠隔転移がない場合(TNM分類:T1cかつN1,2、M0)
-
大きさが2cmより大きく、リンパ節転移の有無は問わず、遠隔転移がないがないか、あっても腋窩と内胸リンパ節転移のみの場合(TNM分類:T2~4、N0~2、M0)
※鎖骨周囲のリンパ節に転移がある場合(N3)は基準外です。
術前化学療法:
↓
②ペムブロリズマブ+ACまたはEC
↓
手術
↓
術後化学療法:
③ペムブロリズマブ単剤
投与間隔:
→毎週、12サイクル または 3週ごと、4サイクル
ACまたはEC
→3週ごと、4サイクル
→3週間間隔投与の場合、術前に抗がん剤と併用で8回まで、術後単剤で9回まで
→6週間間隔投与の場合、術前に抗がん剤と併用で4回まで、術後単剤で5回まで。



🌳 転移性TNBCの薬物療法
肺、肝臓、骨、脳などの遠隔臓器に転移しているTNBCを転移性TNBCといいます。転移性の場合、リンパ節転移を除き転移巣の外科的切除は予後を延長しないことが示されており、化学療法を行います。転移して初めて行う治療を1次治療といい、効果があれば副作用を見ながら同じ薬を繰り返し使用します。効かなくなった時は薬を変更していき、2次、3次治療とよんでいきます。
がんとより良く共存を目指すための治療で、これまで構築されたデータをもとに患者様の状態や希望によって薬剤を選択し、投与量や間隔を決めていくことが大切です。
1次治療
アンスラサイクリンとタキサンを初期治療で使っていない場合
まずそれらから使います。アンスラサイクリンには心毒性があり、投与できる回数に制限があるため、効果があっても6回程度で次の治療に切り替えます。
アンスラサイクリンとタキサンを初期治療で使っている場合
免疫チェックポイント阻害剤であるアテゾリズマブ(商品名:テセントリク)が2019年9月に保険承認されて以降、転移性TNBCの治療は大きく変化しました。さらに2021年にはペムブロリズマブ(商品名:キートルーダ)も保険承認され、治療の幅が広がりました。
免疫チェックポイント阻害剤を用いた1次治療は、現在ガイドライン上は推奨度2(弱く推奨)であり、1次治療でどの薬剤を選択するか施設間で差はありますがますが、徐々に免疫チェックポイント阻害剤を使用する流れとなっています。
1.手術または針生検などで採取してあるがん細胞を用いて、病理検査でPD-L1を調べます。
TNBCの中でPD-L1陽性の患者さんは約4割といわれいます。
PD-L1陽性なら・・・
免疫チェックポイント阻害剤+抗がん剤
→4週間で1サイクル
第1、3週はアテゾリズマブ+ナブパクリタキセル
第2週はナブパクリタキセルのみ
第4週は休薬
→3週間または6週間で1サイクル
PD-L1陰性なら・・・
→4週間で1サイクル
第1、3週はnab-PTX+Bev
第2週はnab-PTXのみ
第4週は休薬
錠剤
→1日2回4週間内服後、2週間休薬
2.遺伝性乳癌が疑われる場合は、遺伝子検査でBRCA変異も調べます。
BRCA変異が陽性の場合のみPARP阻害剤というオラパリブという薬を使うことができます。
化学療法に比べて副作用が少ないため、この薬が効く場合は長期間の良好なQOLも期待できます。デメリットとしては、変異陽性であれば家族に遺伝している可能性を知ることとなりますので、十分な遺伝カウンセリングを実施した上での検査が必須となります。また、TNBCの中でBRCA変異陽性の患者さんは数%と少ないため、使用できる患者さんはかなり限られてしまいます。現在、補助療法としても臨床試験が行われております。
【オラパリブ】
錠剤
→1日2回内服、毎日
2次以降の化学療法
2023年3月にトラスツズマブ デルクステカン(商品名 エンハーツ) が「化学療法歴のある HER2 低発現の⼿術不能⼜は再発乳癌」に適応追加、2024年9月にはサシツズマブ ゴビテカン(商品名 トロデルビ)が「化学療法歴のあるホルモン受容体陰性かつHER2陰性(トリプルネガティブ乳がん)の手術不能または再発乳がん」の治療薬として、国内にて製造販売承認を取得しました。
これらは抗体薬物複合体という新しい薬で、これまで2次治療として行われてきた抗がん剤と比較し、長期間効果が持続すると言われています。今後、転移・再発トリプルネガティブ乳がん患者さんの予後が飛躍的に改善することが期待されます。
→3週間おきに投与
→3週間で1サイクル 1日目、8日目に投与
その他に、以下の抗がん剤が使用可能です。
【カペシタビン】 錠剤
→2~3週間内服後、1週間休薬
【エリブリン】
→3週間で1サイクル 1日目、8日目に投与
【ゲムシタビン】
→3週間で1サイクル 1日目、8日目に投与
【ビノレルビン】
→毎週
【イリノテカン】
→4週間で1サイクル 1日目、8日目、15日目に投与
3.よくある疑問

