top of page

 ここでは、トリプルネガティブ乳がんに特記した説明をおこなっております。難しい表現も含みますが、この病気に立ち向かうためには、きちんとした知識を得る事も大切です。少しずつで構いません、私達と一緒に勉強していきましょう。

🌳 トリプルネガティブ乳がんとは?

 

乳がんは、病理検査でがん細胞が持つタンパク質を調べ、その特徴により主に5つのタイプに分類されます(表1)。それを「サブタイプ」と呼び、その一つがトリプルネガティブ乳がんです。このサブタイプに基づいて、薬物療法の選択がなされます。

  • ホルモン受容体(エストロゲン受容体;ER、プロゲステロン受容体;PgR)というタンパクがある場合、そこに女性ホルモン(エストロゲン)が結合すると、がん細胞が増殖します。ホルモン療法により餌となる女性ホルモンの働きを減らすことで、がんの増殖を抑えることが可能です。乳がんの60~70%が、ホルモン受容体陽性といわれています。なお、PgRはERが働くと作られるタンパクです。

  •  HER2(human epidermal growth factor 受容体 type2)というタンパクは、正常な細胞にもわずかに存在し、細胞の増殖調節機能を担っていると考えられています。このHER2が活性化したり、たくさん持っていたりすると、がん細胞が増殖します。分子標的治療薬のトラスツズマブ(ハーセプチン)により、このHER2だけをピンポイントに攻撃することで、がんの増殖を抑えることが可能です。乳がんの15~30%がHER2陽性といわれています。

  •   抗Ki67抗体(Anti-Ki67 antibody)は細胞周期関連核タンパク質です。細胞増殖と細胞周期のマーカーとして用いられます。また,Ki67発現量と腫瘍の増殖能力には正の相関が見られるため,腫瘍組織における増殖細胞を検出するマーカーとしても有用です。14~20%以下を低値としていますが、評価法が標準化されていないため一定していません。

(表1)乳がんのサブタイプ

ホルモン受容体、HER2がどちらも存在しないものが、トリプルネガティブ乳がん分類されます。

 

 つまり、ホルモン療法も、分子標的治療薬のトラスツズマブも効果がなく、効果が期待できる主な薬剤は、抗がん剤です。

 乳がん全体の約10%を占め、増殖能力の高いものが多く、さらに治療薬が限られていることから予後不良といわれています。3年以内の再発が他のサブタイプの乳がんよりも多く、再発後の生存期間も、抗がん剤が効かなかった場合他のサブタイプの乳がんに比べて短いのが現状です。また、若年性乳がんにトリプルネガティブタイプが多いのも特徴です。 

 現在、多くのトリプルネガティブ乳がん研究から、いくつか効果のある薬が発見されています。これらが標準治療として使用できるようになれば、将来この「予後不良」という現状を打破できるのではないかと考えております。

🌳 そうはいってもいいこともある!!

 

 エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2の3つが陰性であるため、トリプルネガティブです。

決して、“ネガティブな病気である”とういうことではありません。

 トリプルネガティブ乳がんの再発率は、3年以内は高い反面、3年を過ぎると他のタイプよりぐっと低くなります。

            

🌳 トリプルネガティブ乳がんの現状と今後

 現在、トリプルネガティブ乳がんの予後は悪いといわれています。そのため、トリプルネガティブ乳がんの病態、治療は、乳がん研究においてトピックスとなっており、多くの研究、開発が行われています。

  最近の研究では、トリプルネガティブ乳がんは、さらに少なくとも7種類のサブタイプに分類され(表2参照)、サブタイプ毎に治療効果の期待できる薬剤を選別できることが示唆されています。

  今後は、トリプルネガティブ乳がんの明確かつ簡便なサブタイプ分類の検査法を確立し、そのサブタイプ分類で選別されたトリプルネガティブ乳がん患者を対象に、最も有効性が期待される薬剤を用いた臨床試験の実施が求められています。

  しかしながら、乳がん患者の約10%と少ないトリプルネガティブ乳がん。研究、開発がなかなか進まないのが現状です。

 

 

そこで立ち上がったのが「ふくろうの会」です。

私たちが声をあげ、協力することで、

トリプルネガティブ乳がんの予後をよくしていきましょう!

 

【参考文献】

  • 科学的根拠に基づく 乳癌診療ガイドライン ①治療編 ②疫学・診断編 2015年版  日本乳癌学会ー編 金原出版

  • トリプルネガティブ乳癌の治療戦略  紅林淳一 著  日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 第29巻 第4号 293-297 2012

 

 

(表2)トリプルネガティブ乳がんのサブタイプ

 

 マイクロアレイ法という検査法を用いて、癌細胞の遺伝子を調べ、その特徴によって以下の7つに分類します。この方法は煩雑で費用も高額であり、通常、一般診療では行っていません。

🍂 basal-like1(BL1)サブタイプ 🍂 basal-like2(BL2)サブタイプ

 細胞増殖能が極めて高く、細胞周期関連遺伝子やDNA傷害応答性遺伝子が高発現。
 遺伝性乳癌の原因遺伝子の一つBRCA1の遺伝子変異を受け継いだ保因者に発生する乳癌(BRCA1関連乳癌)の80~90%は、

 遺伝子発現プロファイルではBLに分類される。
🍂 immunomodulatory(IM)サブタイプ

 髄様癌が代表、免疫反応に関連した遺伝子が高発現。

🍂 mesenchymal (M)サブタイプ  🍂 mesenchymal-stem like(MSL)サブタイプ

 transforming growth factor[TGF]-β、EMT、増殖因子、Wnt/β-cateninシグナルに関連した遺伝子が高発現。

 後者では幹細胞関連遺伝子も高発現。

🍂 luminal androgen receptor(LAR)サブタイプ

 アンドロゲン受容体(男性ホルモン)やluminal関連遺伝子が高発現。

🍂 Unstable(UNS)

 上記どれにも分類できないもの。

 

bottom of page